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入社3年目、初めてまかされた工事の采配 ― 道路改修工事を振り返って ―
前回の記事では、「兄弟で働く」というテーマで、井上さん兄弟にお話を伺いました。今回は、入社3年目(取材当時)で担当工種のリーダーをまかされた井上さん(兄)に、工事を振り返ってもらいました。初めて責任ある立場で臨んだ現場で、どのような経験と学びがあったのでしょうか。
■まかされたから見えてきた、現場の全体像

今回の工事で、担当工種のリーダーとして現場を支えた井上さん(兄)(写真右)
編集部(以下、編):現場が無事完成しましたね。改めて、今回の工事について教えてください。
井上さん(以下、井上):起伏の大きかった道路を、将来できる道路の高さに合わせてかさ上げする工事でした。それに伴って、排水構造物の設置なども行いました。今回は、初めて担当工種責任者という「リーダー」の役目をまかされました。
編:初めてのリーダーですね。これまでとの違いはありましたか?
井上:かなり違いましたね。これまでは上司の指示に従って動くことが多かったのですが、今回は「自分が完成イメージを持っていないと、現場が動かない」と実感しました。例えば、1カ月の工事でも、着手の2カ月前から完成形を頭の中で描いておく必要があります。現場では想定通りにいかないことも多いので、測量で分かる誤差なども踏まえながら、あらかじめいくつか代案を考えておくことを意識しました。その上で、自分なりに「これがベストだ」と思う案を整理して、所長に判断を仰ぐ。これは先輩たちがずっと続けてきたやり方で、僕も入社1年目から教わってきたことです。

排水溝は図面との誤差がほとんどなく、納得の仕上がりに

側溝と擁壁の取り合い部は、現場で工夫しながら施工したポイント
編:その姿を見て、弟さんはどう感じていましたか?
井上(弟):兄が事前にしっかりと準備しているのを見ていました。僕も測量などでサポートしながら、これまでの現場で学んだ「報連相」を意識し、こまめに報告や相談を行うようにしていました。そのおかげでコミュニケーションがうまく取れていて、大きなトラブルもなく作業は順調に進んだと思います。
井上:ただ、順調すぎて逆に焦ったこともありました(笑)。
編:順調すぎて焦る…?
井上:作業員さんの動きがとても早くて、工程が予定よりどんどん前倒しになったんです。そのスピードに測量準備が追いつかず、作業を少し待ってもらった場面がありました。うれしい悲鳴ではありましたが、もっと先を見て準備しておくべきだったと反省しています。
■現場を支える、地域とのコミュニケーション
編:近隣住民の方とのコミュニケーションも、現場の大事な仕事のひとつですよね。
井上:そうですね。所長が対応することもありますが、担当工種リーダーをまかされている以上、自分からもできるだけ声をかけるようにしていました。工事中はどうしても騒音や振動などでご迷惑をおかけしてしまうこともあります。だからこそ、ただ説明するだけでなく、普段から顔を合わせて言葉を交わすことを大切にしています。
最初は工事の話からでも、「このあたりは昔、どんな道だったんですか?」と地域の話を聞かせてもらうと、自然と会話が広がるんです。そうして関係ができてくると、「今日はこの作業をするので、少し揺れるかもしれません」といったお願いも、理解していただきやすくなります。
現場は技術だけで完成するものではなく、地域の皆さんとの信頼関係があってこそ進む仕事だと思っています。

近隣の方が工事の様子を定期的に見に来られていました
編:井上さんは、職人さんたちとのコミュニケーションは最初からうまく取れていましたか?
井上:高校まで野球をやっていたので、年上の方と関わることには慣れていました。その経験もあってか、現場の職人さんたちはとてもフレンドリーで、声もかけやすいと感じます。もともと建設の仕事を身近に感じる環境で育ったこともあり、職人さんと話したり相談したりすることに、あまり抵抗はありませんでした。同期の中には、最初は少し緊張する人もいましたけどね(笑)。
■完成して見えた、次の課題と学び
編:初めて担当工種リーダーを務めた工事を終えて、いかがでしたか。達成感も大きかったのではないでしょうか?
井上:正直に言うと、達成感よりも「もっとできたのでは」という悔しさが残っています。品質検査でも評価はいただいたのですが、「ここはもっときれいにできたのでは」と思う部分があって。図面通りにはできているのですが、現場を見ながら「もっと美しく仕上げよう」という指示を、もう少し早く出せていればよかったと感じています。作業員の皆さんは本当に高い技術を持っているので、こちらがしっかり意図を伝えれば、それ以上に応えてくれる方ばかりなんです。だからこそ、自分の判断や指示のタイミング次第で、もっと良くできた部分があったのではないかと思っています。
編:一通り経験したことで、見えるものも変わってきましたか?
井上:そうですね。今回、工事の一連の流れを経験したことで、改めて気付いたこともありました。例えば、夜になると少し暗い場所では、歩行者が安心して通れるような工夫を提案できたかもしれない。そんなふうに、実際に道を使う人の目線で考えることの大切さも感じました。一通り経験したからこそ、次はもっと広い視点で現場を見ることができるようになりたいと思っています。
―編集記―
初めてひとつの工種をまかされたからこそ見えた課題と、次につながる手応え。井上さんにとって、この経験は大きな一歩になったようです。そして、この現場には、実はもうひとつ印象的な出来事がありました。
後日談
取材の中で井上さんは、「現場が完成したら兄弟で、両親と一緒にこの道を通りたい」と話してくれました。ところが、完成後、なんとご両親が先にこの道を通ったそうです。
後日届いたメッセージには、「兄弟が同じ現場で働く姿も見てみたかったのですが、完成した道を通って、とても感動しました。うれしい体験でした」。と書かれていました。兄弟で携わった道路は、今日も地域の人たちの生活を支えています。