連載
建築施工現場の舞台裏に迫る ―医療施設増築工事編 Vol.5―
前回の記事(https://arakizm.com/construction-site-log-4/)では、内装工事が進む現場をご紹介しました。
医療施設の増築工事はいよいよ完成に向けた仕上げ段階へ。建物は骨組みだけの状態から徐々に「空間」へと姿を変え、壁や天井、設備が次々と取り付けられています。一方、壁で空間が仕切られるにつれ、現場全体を見渡すことは難しくなっていきます。そんな中、現場監督たちはどのように現場を動かし、工事の品質と働く人たちの安全を守っているのでしょうか。完成が近づく現場を歩きながら、工程管理を務める八木さんにお話を伺いました。
編集部(以下、編):八木さん、今日も現場の案内をお願いします!中を歩いていると、壁や天井ができて、空間がどんどん形になってきましたね。
八木さん(以下、八木):ありがとうございます。例えば、この壁のボードは、ただ端から順番に貼っているわけではないんですよ。両端にくるボードの寸法が左右均等になるように、あらかじめ計算して貼っています。

八木さんが現場で丁寧に教えてくれました
編:左右均等ですか?
八木:そうです。端に極端に細いボードが入ると、見た目がきれいではないですし、施工の手間が増えてミスにもつながります。なので、図面の段階で「ボード〇枚+左右はこの寸法」というところまで考えて、照明やスイッチの位置も含めて事前にチェックしています。今回のように設計から施工まで一貫して担う場合は、施工する側の視点から「こう納めるのが一番きれいで、効率よく施工できる」というところまで考えて、図面に落とし込んでいきます。職人さんが現場で迷わず施工できるように、事前に細かいところまで決めておく。これも僕たち現場監督の大事な仕事なんですよ。

照明などを取り付けるための穴
編:なるほど。ボードを貼るにも、そんな細かな計算がされているのですね!天井のボードが付いた後は照明器具などを取り付けると思うのですが、穴を開ける位置はこれから天井に印を付けるのですか?
八木:いえ、天井に直接印をつけるわけではないんですよ。実は、足元を見ていただくと印がありますよね。この真上が、天井に穴を開ける位置なんです。照明器具などを取り付ける位置も、まずは床に印をつけていきます。図面に示された位置を、実際の現場にしるしていく。これが「墨出し(すみだし)」という作業です。

これが「墨出し」でつけた印です
編:えっ!天井の工事なのに、印をつけるのは床なんですか? 床の印から、どうやって天井の正確な位置を出すのですか?
八木:この床の印の上にレーザー照射器を置いて、天井に向かって垂直にレーザーを当てるんです。その光が当たったところが、実際に作業する位置になります。こうして現場の床には、図面のさまざまな情報が落とし込まれています。だからこそ、現場をきれいに保つことが大切なんです。床が汚れて墨出しの印が消えたり見えなくなったりすると、正確な施工にも影響しますからね。
編:なるほど。荒木組が大切にしている「きれいな現場」には、そういう意味もあるのですね。あ、こちらの吹き抜けのような空間は…、エレベーターですか?
八木:これは「エレベーターシャフト」といって、エレベーターが上下するための空間です。ここに、コンクリートの構造体ができた後からエレベーターを組み立てていきます。実はエレベーターって、基本的にはひとりの職人さんが部品を搬入して、下から順番に組み立てていくんですよ。
編:えっ!エレベーター1基を、お1人で組み立てるんですか!?
八木:そうなんです。仮設の手すりを設置して、パーツを一つひとつ組み上げていきます。まるで巨大なプラモデルを組み立てるような作業ですね。1基を組み上げるのに、だいたい2~3週間かかるんですよ。

組み立て途中のエレベーター
編:普段何気なく使っているエレベーターの裏側に、そんな地道な職人技があるなんて驚きです。それにしても、工事が進んで壁や仕切りが増えてくると、現場全体を見渡すのが難しくなりそうですね。
八木:そうですね。工事が進むにつれて、お互いの姿は見えづらくなっていきますね。だからこそ、コミュニケーションがより重要になります。毎日の朝礼では、「今日はどの協力会社さんが、どこで、何の作業をするのか」を全員で共有します。そして、昼の打合せでは、翌日の作業手順や予定を擦り合わせる。また、現場で何かあれば、職人さんから僕の携帯にすぐ電話をもらうようにしています。連絡があれば、すぐにその場所へ駆けつける。現場を止めないためには、こうした日々のコミュニケーションが大切なんです。
編:そういえば、今日の昼の打合せも、入社1年目の若手社員さんが司会をされると聞きました。
八木:そうなんです。1年目の仕事は、まず現場の写真を撮って記録を残すことから始まります。そうやって現場を見ながら工事の流れを覚え、徐々に工程を組む力や図面を読む力を身につけていく。「どうすればもっと現場がスムーズに動くか」を自分で考えるトレーニングですね。昼の打合せの司会もそのひとつ。日々、たくましく成長してくれていますよ。
編:こうして少しずつ経験を積んでいくのですね!ちなみに…、ちょっと素朴な疑問なのですが、現場監督さんって1日にどれくらい歩くものなんですか?
八木:歩数ですか? だいたい毎日1万5,000~2万歩くらいはいきますね(笑)。広い現場や、階段を何度も上り下りする現場だと、3万歩近くいくこともあります。本社でデスクワークをしていると2,000歩もいかない日があるので、それと比べると現場での運動量は相当なものですよ。

現場はすでに屋上まで。毎日の上り下りもひと仕事です
編:そんなに歩くんですか! 階段の上り下りだけでも、かなり体力を使いそうですね。
八木:そうですね。だからこそ、特に夏場の熱中症対策がとても重要になります。職人さんは作業に集中していると、つい無理をしてしまうこともあります。各階に扇風機を置いて風を通したり、こまめな水分補給を呼びかけたりして、熱中症を防ぐようにしています。建物をつくるだけでなく、そこで働く、みんなが安全に作業できる環境をつくることも、僕たち現場監督の大切な仕事ですから。
編:一つひとつの丁寧な仕事と、現場で働く人への細やかな気配り。その積み重ねが、建物の完成につながっていくのですね。八木さん、今日も貴重なお話をありがとうございました!