連載
密着!荒木組の設計 第6回 ─図面を描くだけじゃない。完成へとつなぐ役割─
前回は、建物の完成後には見えなくなる部分を確認する「品質検査」の様子を紹介しました。(https://arakizm.com/araki-architect-05/)←LINKが開きます
現場の様子が大きく変わった今回も、設計課の市原さんと向井さんに同行。内装工事が進み、足場も外された現場を歩きます。完成が近づく現場で、市原さんと向井さんは何を見て、何を考え、どのような思いで建物と向き合っているのでしょうか。

編集部(以下、編):先ほどからお2人の確認作業に同行していますが、連携がとてもスムーズですね。市原さんが声をかけると、向井さんがすぐに動いて記録を残していく。事前に役割を決めているのですか?


現場を歩きながら、施工状況を一つひとつチェック
向井さん(以下、向井):いえ、特に決めていません(笑)。工事が進む中で何度も現場を見ていると、「どの部分が大切で、どこを記録に残すべきか」が少しずつ分かるようになってきました。
市原さん(以下、市原):向井さんには「記録を残す」だけではもったいないと伝えています。なぜここを確認するのか、次に何が必要になるのか。そこまで考えながら、自分で動けるようになってほしいと思っています。
編:写真を撮る、記録を残す。一見すると地道な作業ですが、こうした積み重ねも、現場を理解することにつながっていくのですね。
市原:そうなんです。現場で自分の目で確認して、それをデータや申請書類に落とし込んでいく。それを繰り返していると、少しずつ複雑な図面や工事の流れが頭に入ってきます。そうすると、「次はここを確認しておかないと」、「この記録が必要になるな」と、先のことまで考えられるようになる。指示を待つだけではなく、自分で考えて現場を確認していくことが大切だと伝えています。
編:なるほど。それにしても、これだけのボリュームの図面がありますが、市原さんはすべて記憶しているのですか?
市原:だいたいは覚えていますよ。もちろん、工事の進捗に合わせて、重要な図面はその都度しっかり見直します。

気になる箇所は、その場で図面と照らし合わせます
編: 図面を描いた後も、こうして何度も現場に足を運ぶのですね。
市原:はい。図面を描いて終わりではありません。実際に現場でどうカタチになっているのかを確認していくことも、設計の大切な仕事です。
編: 建物を覆っていた足場や養生シートも外されましたね。
市原:建物全体が見えるようになると、一気に景色が変わりますよね。お施主様が「あ、こんな建物ができるんだ!」と実感するのも、このタイミングだと思います。
編:設計者としても、うれしい瞬間なのではないですか?
市原:ええ。でも、このタイミングで一番気になるのは、実はお客様の反応なんです。それまでも、パースを使って完成後のイメージを共有していますが、やはり実物を見ると印象は変わります。自分がどう感じるかよりも、お客様が実際に建物を見て、どう感じてくださるか、喜んでいただけるか。そこが一番気になりますね。
編:お客様の反応が気になるのは、やはり設計しているときから、お客様が実際に使う姿を思い描いているからですか?
市原:そうですね。設計している間も、常に実際に使うお客様のことを考えています。
編:なるほど。そう考えると、設計では「どう見せるか」という意匠だけではなく、実際に建物が完成するまで、いろいろなことを考える必要がありそうですね。
市原:そこはすごく大切ですね。例えば、RC造(鉄筋コンクリート造)ならではの美しさを追求しながらも、お客様と約束したことや、これまで共有してきたイメージを、実際の建物としてどうカタチにしていくかを考えます。その一方で、工事の途中で設計変更があったり、スケジュールを調整したりと、対応しなければならないこともたくさんあります。意匠だけを考えるのではなく、現場と調整しながら工事を前に進め、お客様と共有してきたものをきちんと実現していく。そうした一つひとつの対応も、お客様に対する誠実さだと思っています。
編:それを設計だけで完結させるのではなく、現場とも一緒につくり上げていくのですね。
市原:もちろんです。設計だけで建物は完成しませんから。図面に込めた意図を現場に伝えることも必要ですし、逆に現場から「ここはこうした方がいい」と意見をもらうこともあります。お互いに確認しながら、一番良い方法を考えていくことが大切だと思います。
編:設計と施工、それぞれの視点を持ち寄りながら、ひとつの建物をつくり上げていくのですね。ちなみに、今回の医療施設は部屋数も多いですが、すべて市原さんが設計されたのですか?
市原:建物全体の設計は私が担当していますが、病室などのインテリアデザインは向井さんも担当しているんですよ。
向井:そうなんです。市原さんに相談してアドバイスをもらいながら進めています。自分が担当している部分だけを見るのではなく、建物全体の中でどうつながっているのかも考えながら、お客様に喜んでいただける空間になるよう設計しました。
編:図面を描くところから現場でカタチになっていくところまで、その先にはいつもお客様がいるのですね。
市原さん、向井さん、今日はありがとうございました!