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荒木組の博士 —第1回—

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荒木組に、地盤工学会の論文投稿によって表彰された社員がいるとの情報をキャッチ!早速、アラキズム編集部は、その話題の人物にお話を伺ってきました。荒木組での勤務と並行して大学院に進学し、研究を進めたというそのキャリアは、まさに“技術と現場の橋渡し”とも言える道のりです。

第1回では、大学院で研究活動をスタートした経緯についてご紹介します。

第1回 — ICTに関わり始め、大学院へ

編集部(以下、編):このたびは論文の受賞おめでとうございます!どのような内容の論文で受賞されたのですか?

長江さん(以下、長江):ありがとうございます。「移動体測量を使ったインフラのメンテナンス作業に関する基礎的研究」をテーマに、地盤工学会中国支部論文報告集「地盤と建設」第42巻第1号に投稿した論文が、地盤工学会中国支部から表彰されました。

編:すばらしいですね!研究内容については、後ほど改めて伺います。長江さんは荒木組で勤続何年になりますか?

長江:今年で30年になりました。現在は工務本部技術課に所属していますが、それまでは主に土木現場で施工管理をしていました。

編:働きながら大学院で研究活動を始めた経緯を教えてください。

長江:2016年ごろ、国土交通省中国地方整備局岡山国道事務所から当社に、「中国地方で一番最初にICT施工をやってみませんか?」という打診があったそうです。(※ICT施工とは、情報通信技術(ICT)を建設現場で活用し、生産性および品質を向上させる取り組みのこと。)それで、当社が取り組みを始めたことがスタートだと聞いています。

編:では、そのICT施工を行う現場の所長だったのですか?

長江:いえ、その時は別の現場にいて、直接の担当ではありませんでした。すでに、外部の協力会社さんとICTの実証実験や工事は始まっていたんです。「ICTをやってもらえないか?」という上司からのひと言で関わるようになりましたが、ICTに取り組んでいくうちに、当社は技術的な遅れがあることが分かりました。

編:大学院への進学は、その延長にあったのですね。

長江:はい。元々、新しい技術に取り組んでいく中で、ICTを研究されている岡山大学大学院の西山哲教授に、上司がいろいろと相談をしていたようです。ICTを活用するために先端技術や技術協力の話をしていく中で、教授から「大学院で本格的に研究してみては?」と提案をいただいたことがきっかけで、上司から私に大学院進学の打診がありました。

編:入学までに、どのような準備をされたのですか?

長江:まず、入学に必要な2本の論文を仕上げる必要がありました。独学でICTに関する過去の論文を読んで研究しました。分からない用語が出てきたら、理解できるまで調べることを徹底的に繰り返し、知識を増やしていきました。並行して、西山教授のサポートを受けながら論文を完成させ、2021年に大学院に入学しました。いわば、研究者としての基礎をつくる時間でしたね。

編:学生時代から勉強はお好きだったのですか?

長江:大嫌いです(笑)。でも、「やるしかない」という気持ちで挑みました。社会人大学院生は留年することが多いと聞いていたので、結構プレッシャーに感じて…。

「ICTをやってもらえないか?」という上司からのひと言だけで制限は何もなかったので、まずは独学で勉強してスモールスタートした、という感じでしたね。

編:なぜ努力できたのでしょうか?

長江:現場に必要だったからです。ICTの技術を現場に還元するには、自分が理解していなければなりません。同僚や後輩たちから「これはどうするんですか?」と聞かれても、「分からない」では済まされませんから。

編:入学後の生活はいかがでしたか?

長江:社会人大学院生とはいえ、講義やレポート、研究活動は現役院生とまったく同じです。平日は仕事、土日は研究や課題。正月も返上して取り組んでいました。

研究者倫理やキャリア形成、AI、ニューラルネットワーク、科学的思考など、多岐にわたる講義を受けました。また、自分の研究以外にも視野を広げ、知的財産権や腸内細菌の研究などの講義で、さまざまな分野の先端技術を学びました。ちなみに、講義は英語で行われることも多く、英語ができることが前提。レポートは業務後に書く、という日々でしたね。

編:なんてハードな…!大変な環境でも研究は進められたのですね。

長江:はい。現場で実証実験を行いながら研究を進めることができたので、実務と研究がうまくリンクしました。現場から得た課題を研究テーマに反映することもできたので、確かめたいことを実践できる環境だと思いました。

また、研究活動を通じて、同様の最新技術を知る機会も多く、大変勉強になりました。

編:現場と大学院、両方の経験がつながっているのですね。

長江:そうですね。自分が学んだことを、どう社内に伝えるか、若手にどう浸透させていくか。それもまた、研究とは別の「実践」だと感じています。

―次回は研究内容についてインタビューしていきます!