特集
【特別対談】コミュニケーションが生んだ、開かれた現場づくり
1年間にわたる工事を経て完成した、旭川荘の障害福祉サービス事業所「ラポールかえで」。
この現場は、仮囲いアート【前編記事リンク】【後半記事リンク】やクリスマスアート【クリスマス記事リンク】などの取り組みを通して、これまでもアラキズムで紹介してきました。
また、利用者の方々が生活する施設のすぐ隣で進められた、“日常と隣り合わせ”の現場でもありました。安全への配慮はもちろん、環境の変化による不安や地域との関わりなど、その一つひとつに向き合いながら進められてきました。今回は、その歩みの締めくくりとして、プロジェクトをともに歩んできたお施主様と板村所長に、完成までの道のりを振り返っていただきました。

新たに完成した「ラポールかえで」
編集部(以下、編):今回の工事は約1年にわたるプロジェクトでした。着工前はどのように進められたのでしょうか。
お施主様:まず、計画書をもとに、工事の進め方について丁寧に説明していただきました。私たちが納得した上で進めてくださったので、安心感がありました。
編:工事が始まる前、不安はありましたか?

今回の対談に快くご参加くださった「ラポールかえで」の所長様
お施主様:工事そのものについては、安心しておまかせできると思っていたので、不安はありませんでした。ただ、利用者の方々の生活環境が変わることについては気になっていました。環境の変化は大きなストレスになりますし、何より「安全に過ごせるか」という点は常に意識していました。
編:お施主様の不安に対して、現場ではどんなことを意識されましたか?
板村所長(以下、所長):今回は施設内の通路を共有しながらの工事でした。そのため、利用者様や職員の方との接触事故、いわゆる第三者災害を絶対に起こさないことを最優先に考えていました。実際に工事が始まると、利用者様が現場に興味を持ってくださって、よく見に来られていましたね。
お施主様:散歩の途中に現場を見るのが日常になっていました。「外壁ができてきたよ」というふうに教えてくれる方が多くて、会話のきっかけにもなっていました。

引渡し間近に実現した対談。板村所長にとっても貴重なひとときになりました
所長:実は、あえて現場が見えるようにしていたんです。仮囲いを完全に閉じてしまうと、中の様子が分からず不安につながることもあるのではないかと思いました。そこで、仮囲いの高さを調整して、外からでも工事の様子が分かるようにしました。また、ただ見えるだけでなく、工事現場そのものが少しでも前向きに受け取ってもらえるようにしたいと考えていました。
編:そのひとつが、仮囲いアートの取り組みだったんですね。
お施主様:あの企画は本当に良かったです。工事現場はどうしてもネガティブな印象を持たれてしまうこともあるのかなと思うのですが、利用者様や地域の子どもたちの作品が飾られることで、一気に明るい雰囲気になりました。
所長:せっかく同じ場所で過ごすので、仮囲いアートの取り組みも含めて、工事そのものがプラスの時間にできたらと思ったんです。

お施主様:利用者様も「自分の作品が飾られている」とうれしそうにされていましたし、それが新たなコミュニケーションにもつながっていました。日常的に絵を描かれている方もいらっしゃるので、作品づくりにもより一層力が入っていたように感じます。また、地域の方々にもご覧いただく機会があり、ここで生活されている利用者様の存在を、自然なかたちでお伝えできたのではないかと思っています。クリスマス時期のライトアップも大変好評で、職員も仕事帰りに癒やされていましたよ。
編:現場の皆さんと施設の方々との間で、交流もあったと伺いました。
お施主様:作品の中には、現場の皆さんに向けて「いつもありがとう」と描かれたものもありました。自分たちの「新しい挑戦の場所」をつくってくれているということを、利用者様なりに受け止め、その感謝の気持ちを精一杯に表現されていたのだと思います。

所長:あのメッセージは現場にとって、これ以上ない励みになりました。現場は普段は外から見えにくい環境ですが、利用者様や職員の皆さまとコミュニケーションがあることで、私たちのモチベーションも格段に上がりました。
編:こうした取り組みは、利用者様の不安に対して相乗効果があったということでしょうか。
お施主様:そうですね。環境の変化については、一つひとつご説明して同意をいただきながら進めてきました。さらに、仮囲いアートやクリスマスアートがあったことで「楽しみ」というポジティブな要素が加わり、コミュニケーションがより深まったと感じています。
編:定例会議だけでなく、普段から顔を合わせる機会が多かったと伺っています。
所長:はい。現場のすぐ隣で利用者の皆さんが生活されていましたから。お施主様が常に近くにいらっしゃる環境は、正直、現場としては程よい緊張感があるんですよ(笑)。
お施主様:(笑)。私たちとしては、近くにいていただけたからこそ、何かあればすぐに相談できて安心感がありました。また、荒木組さんはいつも細やかに気を配ってくださり、こちらからお願いする前に「施設の使い方を考えると、こうした方が良くなりませんか」と、一歩踏み込んだご提案をいただけたのが印象に残っています。
所長:設計図だけでは読み取れない部分も多いので、利用者様が実際にどのように使われるのかを想像しながら考えることを意識していました。例えば、スロープの形状や設備の配置など、利用者様の負担が少なくなるような工夫をご提案しました。
編:これからいよいよ新しい建物での生活が始まります。完成した建物をご覧になっていかがですか?
お施主様:正直、最初は「どんな感じになるのかな」と少し心配でした。でも実際に入ってみると、とても居心地のよい空間にできあがっていて、ホッとしました。以前、別の場所に一時移転した際に、ヒヤリ・ハットが増えた経験があるので、今度はこの新しい場所で皆さんが安全に過ごせるよう、職員たちとマニュアル作りを急いで進めているところです。
編:現場としては、既存の施設を稼働させながらの新築工事ということで、苦労も多かったのではないでしょうか。
所長:そうですね。更地に新しく建てる工事とは違い、もともと施設があった敷地での工事でしたので、地中から想定していなかった埋設物が出てきたり、過去の図面と実際の状況が異なっていたりと、その都度判断が求められる場面が多くありました。ただ、今回作成した図面は、将来メンテナンスをする方々が困らないよう、最新の情報を正確に残すようにしています。
編:地域との関わりも印象的でした。
お施主様:この施設では月に1回ほどイベントがあり、近隣の方々が来られる機会もありました。そうした中で、「今、どこまで進んだの?」と工事の進み具合を気にしてくださる方も多かったんですよ。現場の方々も、工事車両の通行時に配慮してくださって、本当に地域に見守られた工事だったと感じています。
所長:夏にかき氷キッチンカーを呼んだイベントでは、ものすごい人数が集まってにぎやかでしたよね。協力会社の方々も一緒に楽しめて、現場のモチベーションアップにもつながりました。
お施主様:利用者様にとって現場の皆さんは「自分たちの新しい場所をつくってくれている人」という、とても身近で親しみやすい存在でした。板村さんには、つい無理なお願いもしてしまいそうになるくらい、温かい関係性を築いていただけたことが何よりの財産です。今は工事が終わって静かになってしまったのが、少し寂しく感じるほどです。荒木組さんにお願いして本当に良かったと思っています。
編:建物だけでなく、人とのつながりも少しずつ積み重なり、現場全体があたたかい空気に包まれていたのですね。本日はありがとうございました。
お施主様&所長:ありがとうございました。

これからも施設ににぎやかな声が響き渡ることでしょう