連載
「あたらしい施工管理プロジェクト」発起人、小林部長にインタビュー(後編)
30代社員を中心に進められてきた「あたらしい施工管理プロジェクト」。やがて20代社員も加わりながら広がりを見せ、「施工業務マニュアル(通称:業務一覧)」と「施工図チェックマニュアル」という2つの成果へと結実しました。前編では、プロジェクト発足の経緯からマニュアル作りに着手するまでの道のりについて伺いました。後編では、約2年をかけて完成した2つのマニュアルに込められた思いと作成過程で得られた気付き、そしてその先に見据える未来について、発起人である建築部・小林部長にお話を伺いました。

引き続き、小林部長にお話を伺います
若手のための教科書「施工業務マニュアル」基礎が完成
編集部(以下、編):約2年をかけて、まず若手社員向けの「施工業務マニュアル」基礎が完成したと伺いました。最初にでき上がった資料をご覧になったとき、どのように感じられましたか?
小林部長(以下、部長):まず率直に、「本当に細かい部分まで、よくまとめているな」と感心しました。ただ、内容そのものというよりは、日本語の表現について少し指摘をさせてもらいました(笑)。
編:日本語の表現ですか?
部長:いわゆる、「このマニュアルは誰に伝えるためのものなのか」という視点ですね。作成した20代、30代のメンバーは、すでに現場を経験している者たちです。だからどうしても、自分たちにとって当たり前の言葉で説明してしまう。でも、このマニュアルを読むのは入社1年目や2年目の社員です。現場経験が少ない人が読んでも理解できる内容でなければ意味がありません。実際、最初の資料は専門用語ばかりで、理解が難しい内容になっていたんです。
編:確かに、新入社員と中堅社員では前提となる知識が大きく違いますね。
部長:そうなんです。新入社員は、まず道具や資材の名称、現場で使われる専門用語を覚えるだけで精一杯です。学校では習わない言葉が飛び交う環境ですから、マニュアルを読んでも、専門用語の意味が分からず、読み進められないこともあると思います。ですから、「知識のない人の目線になって考えて、文章をかみ砕いて、より分かりやすく書き直してほしい」と伝えました。

編:新入社員がより使いやすい“教科書”にするためのアドバイスだったのですね。
部長:そうですね。それから、もうひとつ見直したのがマニュアルの構成です。当初は各工種ごとでの手順にまとめられていました。しかし、それでは実際の現場で使う際に工事全体の流れをつかみにくい部分がありました。そこで、準備から躯体工事、仕上げ工事へと、現場での工程の流れに沿って内容を並べ替えてもらったんです。現場の進行に合わせてページを追っていけば、「次は何を確認すればよいのか」が自然と分かるような構成を意識しました。実践的なマニュアルになるように、構成づくりについてはこちらでプロデュースさせてもらいました。
技術継承の生命線「施工図チェックマニュアル」
編:では、もうひとつの柱である「施工図チェックマニュアル」についても教えてください。
部長:こちらは30代社員が中心となって作成したマニュアルです。「施工図」というのは、設計図をもとに、実際の施工方法や寸法、納まり※などを具体的に落とし込んだ図面のことです。現場の管理業務には、ある程度アウトソーシング(外部委託)できる業務もあります。しかし、施工図のチェックだけは、絶対に自分たちの手でやらなければなりません。
※納まり:部材同士の取り合いや接合部の形状・寸法・見え方などを含めた、仕上がり全体のこと。
編:外部にまかせず、自社でやるべき最も大事な部分ということですね。

部長:そうです。ここを怠って図面に不具合があると、実際に施工した際に部材がきれいに納まらなかったり、想定どおりに組み上がらなかったりします。その結果、一度施工したコンクリートや壁を壊してやり直さなければならないケースも出てきます。だからこそ、建築技術者は、誰もが施工図を正しく読み取り、的確にチェックできる力を身に付けなければなりません。施工図のチェックは、品質や安全性、工程管理にも直結する重要な業務です。ここだけは絶対に外部まかせにはできない、荒木組の品質を支える生命線だと考えています。
編:図面を読みこなす力は、身に付くまでに長い時間がかかりますよね。
部長:ものすごく時間がかかります。基礎となる杭工事から始まり、躯体、設備、サッシ、内装の仕上げに至るまで、建築にはさまざまな工程があります。それらすべての図面を理解し、立体的にイメージしながらチェックできるようになるには、どうしても年単位の経験と修練が必要です。昔は、昼間は現場に出て泥だらけになりながら施工を学び、夜は事務所に戻って夜中まで図面と向き合う。そんな働き方が当たり前でした。
編:現場で経験を積みながら、体で覚えていく時代だったのですね。
部長:そうですね。若いうちに無理をしてでも苦労を重ねた方が、技術の習得が早いという面は確かにあります。ただ、今は働き方改革が進み、昔と同じやり方はできません。それは良いことですし、時代に合った変化だと思います。一方で、従来のように現場経験を積み重ねながら技術を習得することが難しくなっているのも事実です。このままでは、先輩たちが現場で培ってきた知識やノウハウが十分に受け継がれなくなる可能性があります。
編:限られた時間の中で、いかに技術を伝えるかということですね。
部長:その通りです。そのために必要だったのが、過去の不具合事例や現場で培われたノウハウを整理し、「図面のどこを見るべきか」、「何に注意すべきか」という気付きを与えるマニュアルでした。昔のように残業をして経験を積むのではなく、勤務時間の中で効率よく学び、施工図のチェックに集中できる環境をつくる。そのためにも、このマニュアルは絶対に形にしなければならないものでした。
マニュアルに込めた思いと未来への期待
編:メンバーの皆さんが作り上げたマニュアルが現場で活用され始めた今、どのようなお気持ちですか?
部長:実は、この取り組みには個人的な思い入れがあるんです。今から20年以上前、私が30代で主任をしていた頃にも、同じように現場のマニュアルを作りたいと考えていたんですよ。
編:そうだったのですか!
部長:自分で資料を作成し、提案したことがあったのですが、当時の建設業界には、若手社員が会社に対して新しい仕組みづくりを提案したり、積極的に意見を発信したりする風潮がまだありませんでした。ですから、その時の思いをなかなか形にすることはできなかったんです。それが今は時代も変わりました。若手社員が建築のあり方や仕事の進め方について積極的に意見を出し、提案や相談もしやすい、本当に素晴らしい環境になったと思います。私が若い頃に実現できなかったことを、今の20代、30代の社員たちが中心となって形にしてくれた。だからこそ、このマニュアルには特別な思いがあります。実際にマニュアルが完成し、現場で活用され始めたという報告を聞いたときはうれしかったですし、非常に感慨深いものがありました。
編:今回の取り組みは、これからの荒木組にとって大きな強みになりそうですね。
部長:私はいつも部下に、「サラリーマンである前に、建築技術者(エンジニア)であれ」と伝えています。もちろん、会社員として与えられた仕事をきちんと果たすことは大切です。しかし、その前に私たちはプロの「技術者」です。言われたことをこなすだけではなく、自ら学び、知識と技術を磨き続ける姿勢を持ってほしいと思っています。現場監督というと、外で汗を流しながら現場を管理する仕事という印象が強いかもしれません。しかし、本来は、建築に関する高度な知識と技術を駆使して品質をつくり上げるエンジニアです。自分の知識や技術という「腕」で価値を生み出し、その成果によって評価される。そんな誇りと気概を持った技術者になってほしい。その思いは今も変わりません。
編:今回のプロジェクトを通じて、その思いも受け継がれているように感じます。
部長:ええ。社員たちが自主的に集まり、議論を重ね、お互いの現場から学び合う姿を見ていると、「技術者としてのプライド」がしっかり根付いていると感じました。このマニュアルを活用しながら、若い世代がさらに経験を積み、荒木組の品質をさらに高いステージへ引き上げてくれる。そんな未来を期待しています。
編:本日はありがとうございました!
「施工業務マニュアル」と「施工図チェックマニュアル」の完成は、技術継承に向けた新たなスタートでもあります。編集部では引き続き、プロジェクトメンバーへのインタビューを通して、マニュアル作成の過程やメンバーたちの思いを紹介していく予定です。次回もぜひご期待ください!