特集
道路を掘らず、水も止めない。深夜に進む「下水管改良工事」
道路の下には、私たちの暮らしを支える下水管が張り巡らされています。その多くは老朽化が進み、今まさに改良が求められています。今回は、道路を掘り返すことなく、下水を止めることもなく、夜間に行われる「下水管改良工事」の現場に密着。街を守るインフラ工事について、現場を率いる福見所長と井上さんにお話を伺いながら、深夜の工事現場に潜入しました。

(左から)福見所長、井上さん
編集部(以下、編):連日の夜勤、お疲れさまです。今回の下水管改良工事は、かなり特殊な工法だと伺いました。
福見所長(以下、所長):そうですね。長年使われ、老朽化した四角い下水管をリニューアルする工事です。この工事の一番の特徴は、「下水を流したまま、上流を断水させることなく施工できる」という点。地域の皆さんの生活への影響を最小限に抑えながら、地下のインフラを改良できるんです。

この赤い部分の地下が今回の現場です
編:水を流したまま、下水管を改良する…? 一体どうやっているのですか?
所長:今回は「SPR工法」という工法で行なっています。まず、マンホールから部品を搬入し、下水管の中で機械を組み立てます。その機械は先端で回転しながら、帯状の樹脂製材料をパチパチとかみ合わせて壁面に巻き付け、新しい管をつくりながら前へ進んでいきます。
▶SPR工法の紹介動画はこちら
〈SPR工法 日本SPR工法協会〉
編:どれくらいの速度で機械が進むのですか?
所長:製管する機械が1日に進むのは約8.3mです。交通規制ができる夜間の限られた時間の中で、効率よく、かつ正確に作業を進めています。機械が通った後は、新しい管と既設の下水管との隙間にコンクリート材料を充填し、一体化させます。こうして補強することで、今後約50年間使い続けられる頑丈な下水管へと生まれ変わります。
編:地下での作業は危険も多いと聞きます。
所長:地下は酸素欠乏や硫化水素が発生する、非常に危険な場所です。こうした地下工事では、過去に全国で死亡事故も発生しており、安全管理には一切妥協できません。

帯状の樹脂製材料は1ロールで700m。1日の施工量約8.3m分に相当します

細心の注意を払いながら、工事の準備を進めます

地下の空気を定期的に測定し、安全な作業環境を維持します
編:井上さんも、地下に入られるのですよね?
井上:はい! 地下に入るために、酸素欠乏・硫化水素危険作業に関する資格を取得しました。毎日の作業前には、必ずマンホール内の酸素濃度や硫化水素濃度を計測して記録します。最初に蓋を開けた瞬間はガス検知器の数値が変化することもあるので、本当に緊張感があります。基本的には協力会社の作業員さんが工事を進めますが、僕も地下に潜って施工状況を確認しています。
編:今回の工事で、荒木組として最も重要な役割は何でしょうか?
所長:私たちの最大の仕事は、「道路規制」と「現場全体の安全管理」です。夜間工事を行うため、まずは警察署へ申請を行い、道路使用の許可を得て規制を実施します。安全管理も、一度計画を立てて終わりではありません。安全パトロールの指摘や前日の作業状況を踏まえて、「今日はカラーコーンを1本追加しよう」、「看板の配置を変えよう」と、その日の現場に合わせて毎日見直しています。より安全な現場にするために、日々改善を積み重ねることが私たちの役割です。


約10分で工事に必要な道路規制と作業帯の設営が完了しました
井上:地上の規制がしっかりしているからこそ、作業員さんたちも安心して地下の作業に集中できます。だから、地上の安全を守ることも大切な仕事です。あと、夜間工事ならではの大変さといえば…、やっぱり「酔っぱらった人」への対応ですね(笑)。
所長:週末の夜などは特に、酔っぱらった人が規制内に入ろうとしたり、ガードマンに絡んできたりすることがあります。マンホールの蓋を開けたまま作業しているので、もし中へ転落すれば大事故につながりかねません。だから地下だけでなく、地上でも人の動きには常に気を配っています。
編:夜勤の仕事は昼間の仕事とは違いますか?
井上:実は僕、夜勤の打診をいただいたときは、ワクワクしかなかったんです。仕事に行くまで時間にゆとりがあるので、今の生活リズムがすごく楽しいんですよ(笑)。
編:ワクワクしかないとは、予想外のお答えでした(笑)。ところで、道路規制の様子を見ていて驚いたのですが、道路の真ん中にトイレを設置されているのですね。
所長:そうなんですよ。作業員さんたちが少しでも働きやすいように、トイレや休憩所の位置にはこだわっています。動線まで考えて配置することで、夜間でも気持ちよく作業してもらえる。そういう小さな配慮も、現場を円滑に進めるためには大切なんです。
編:街が眠る夜、安全を守りながらインフラを支えている皆さんの姿を知ることができました。本日はありがとうございました!