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「あたらしい施工管理プロジェクト」“見て覚えろ”は、もう古い? 次世代へつなぐ「業務一覧」
今回集まっていただいたのは、建築部の5人。彼らは「あたらしい施工管理プロジェクト」を立ち上げたメンバー(「あたらしい施工管理プロジェクト」スタートメンバー座談会。現場経験を、次世代へ | ARAKIZM(アラキズム))の、ひとつ下の世代です。通常業務の傍ら、先輩たちから託された「施工業務マニュアル(通称:業務一覧)」の作成に取り組んできました。
「職人の世界は、見て盗んで学ぶもの」。そんな風習が語られがちな建築業界で、なぜ今、これまで現場で受け継がれてきた仕事を、あえて言葉にして残すのでしょうか。業務一覧が生まれた背景から、5人がぶつかった「現場ごとの正解」の違い、そして次の世代へつなぎたい思いまで。業務一覧づくりに挑んだ5人に話を聞きました。

(左から)安井さん、八木さん、地面さん、青井さん、高橋さん。「岡山工業高校OB座談会」記事にも登場しました(https://arakizm.com/okakou-ob26/)
編集部(以下、編):そもそも、これまで荒木組の建築部には、いわゆる「業務マニュアル」のようなものは存在しなかったのですよね?
安井さん(以下、安井):「この業務はこうやる」といったことが書かれた資料は一切なかったですね。この5人は入社9年目から13年目なんですけど、僕らが入社した頃は、先輩の仕事を見ながら、分からないことは自分で調べて覚えるのが当たり前でした。みんな見よう見まねで、現場で経験しながら泥臭くやってきたんです。
編:まさに昔ながらの職人気質の教育だったのですね。そうした環境の中で、苦労したことはありましたか?
地面さん(以下、地面):一番キツかったのは、最初の現場で教わったやり方を覚えて、次の現場でも同じようにやろうとすると、新しい現場の所長や先輩から「そのやり方は違う!」って怒られたことですね(笑)。教えてくれる人や現場によって、やり方が違うこともあったんです。
高橋さん(以下、高橋):分かります(笑)。最初の3現場くらいは、若手だと1年ほどの短いスパンで異動することも多いんです。当然、現場が変われば上に立つ所長も変わります。所長それぞれの考え方や方針があるので、現場によって「正解」が180度変わることもありました。前の現場で教わったことをよかれと思ってやったのに、次の現場では「それは違う」と言われたりして。「あれ? 荒木組としての正しいやり方って、どれなんだろう」と、何現場か経験するまでは迷うこともありましたね。
八木さん(以下、八木):もちろん、いろいろなやり方を経験することで、自分の「引き出し」が増えていくというメリットもありました。ただ、それを今の若手にもそのまま求めるのは難しいと思います。何を基準にすればいいのか分からなければ、「間違っていたらどうしよう」と、なかなか自分から動けないこともあります。だからこそ、まずは荒木組としての基本となる共通のルールや考え方を示す必要がある。それが、今回の「施工業務マニュアル」づくりにつながっています。

何度も話し合いを重ね、内容を練り上げていきました
編:建築現場は、現場によって条件や必要な作業が異なるため、これまで業務を一律に言語化することが難しかったという背景もありますよね。
青井さん(以下、青井):そうなんです。現場によって条件もやり方も違うからこそ、これまで明文化されてこなかった部分が多くありました。今回、僕たちが作っているものも、すべての細かいやり方を決めて、現場を縛るものではありません。現場ごとにやり方が違うのは当然です。ただ、その中でも「これだけは共通して押さえておこう」という基本の部分は、会社として統一しておきたい。そういう考えで作っています。
編:工事の着工前から完了、引き渡しまで、一連の業務を網羅していると伺いました。実際にマニュアルを形にしていくプロセスはいかがでしたか?
安井:正直、最初はめちゃくちゃ意見がぶつかりました(笑)。みんなそれぞれ違う現場で経験を積んできたので、当たり前だと思っているやり方も違うんです。「いや、ここはこうだろ」って、基本となる部分を決めるだけでも意見が分かれました。でも、「今の若手のために、何とか形にして残したい」という思いは全員共通していました。お互いの経験を持ち寄って意見を出し合いながら、まずは現場でやるべきことをひと通り洗い出していきました。
高橋:一番悩んだのは「誰に向けて書くか」というターゲットの設定です。本当に右も左も分からない入社1年目に向けて書くのか、ある程度仕事が分かってきた5年目に向けて書くのか。みんなで議論した結果、今回は「1年目から5年目まで」を目安に作りました。大体5年ほど経験すれば、現場の仕事をひと通り経験できるようになります。ただ、配属される現場の規模や工事の種類によって、経験できる業務にはどうしても差が出てきます。5年目でも、まだ経験したことのない業務があることも珍しくないんです。
地面:そうそう。「5年目だけど、この業務はたまたま経験してこなかった」というときにも、自分の知識に抜け漏れがないか確認できるチェックリストとしても使えるようにしました。ただ、いざ一つひとつの業務を文章にしようとすると、僕たちの日本語力だけではどうしても限界があって(笑)。
安井:小林部長にも「日本語下手」って言われました(笑)。
地面:自分たちが当たり前にやっていることほど、いざ言葉にして伝えようとすると難しいんですよ。だから、実際に若手へ教える場面をイメージしながら、まずは自分たちで文章のベースを作って、それをAIに「こういうことを伝えたいんだけど、分かりやすく整えて」と投げて、表現を整理するのにも活用しました。もちろん、それだけでは現場で使えるものにはならないので、そこに「荒木組の現場ならこうする」、「こういうところに気を付ける」といった、自分たちの経験から実践的な知恵を肉付けしていきました。
編:現在は実際にマニュアルの運用も始まっているそうですね。世代によって仕事の教え方に対する考え方はさまざまだと思いますが、今後どのように活用していきたいですか?
安井:これまでは、所長それぞれが自分の経験や考え方をもとに若手を育ててきたので、そもそもマニュアルを使って教えるという文化がありませんでした。だから、このマニュアルに対する受け止め方も、人それぞれだと思います。ただ、僕らもこれから上の立場になって、若手を育てていく側になります。そのときに、こうした共通の基準があるのとないのとでは、若手の成長のスピードも変わってくると思うんです。まずは僕らの世代から、このマニュアルを「共通言語」として使っていきたいと思っています。

今年の新入社員にも「業務一覧」が配布され、実際の活用が始まっています
青井:必要になってから用意したのでは遅いと思うんです。5年後、10年後を見据えて、今からやっておかないといけない。これがあれば、例えば週に1回、若手と話す時間をつくって、「今はここまで経験したから、次はこれを確認しよう」と、業務一覧を共通の話題にしながら話ができます。教える側も、自分が若手だった頃の経験や感覚だけを基準にするのではなく、一人ひとりが今どの段階にいるのかを確認しながら、次にやるべきことを伝えられるようになると思います。
八木:若手にとっては、最初のうちは「何を質問すればいいのか分からない」、「何を調べたらいいのかも分からない」という状態なんです。そもそも、ゴールの形が見えていませんから。でも、これが手元にあれば、例えば「来週から鉄骨工事が始まる」となったときに、該当するページを読んで事前に予習ができます。そうすれば、実際に現場で教わるときの理解も深まるし、分からないことを自分から質問することもできる。先輩から見ても、「ちゃんと予習してきてるな」、「ここまで理解しているんだな」と分かるので、そこからもう一歩踏み込んで教えることもできます。そういう積み重ねが、3年後、5年後には大きな成長の差になってくると思います。
編:完成した「業務一覧」は、今年の新入社員にも配布されたそうですね。
高橋:はい。6月末に完成して、今年の新入社員たちに配布しました。この業務一覧を手にした新人たちが、3年後にどれだけ成長しているのか、今から本当に楽しみですね。
地面:このプロジェクトを通して、自分たちが先輩から教わってきた大切なことを、今度は僕たちが次の世代へしっかりつないでいきたいと思っています。このマニュアルは、まだその第一歩です。実際に使う若手の声も聞きながら、これからどんどんアップデートして、より良いものにしていきたいですね。
編:先輩から皆さんへ、そして皆さんから次の世代へ。今回のマニュアルは、これまで現場で受け継がれてきた知識や経験をつなぐ、新たなバトンなのかもしれません。このバトンを受け取った若手たちが、これからどんな現場をつくっていくのか、今から楽しみですね!